【上級者限定】英語の名作・古典小説を読みたい人は「精読」から始めよ
洋書の中でとりわけ難易度の高い文学作品(古典や純文学)をすらすら読めるようになるには、どのように英語を学習すればよいのでしょうか。この記事では、学生時代に洋書リーディングで苦労した末に翻訳家になったmachaが、名作と呼ばれる小説を読むためのお勧めの勉強方法や英文解釈テキストを紹介します。
親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。 (夏目漱石『坊っちゃん』、1906年発表)
禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのである。 五十歳を越えた内供は、沙弥の昔から、内道場供奉の職に陞った今日まで、内心では始終この鼻を苦に病んで来た。勿論表面では、今でもさほど気にならないような顔をしてすましている。これは専念に当来の浄土を渇仰すべき僧侶の身で、鼻の心配をするのが悪いと思ったからばかりではない。それよりむしろ、自分で鼻を気にしていると云う事を、人に知られるのが嫌だったからである。内供は日常の談話の中に、鼻と云う語が出て来るのを何よりも惧れていた。 (芥川龍之介『鼻』、1916年発表)
「こいさん、頼むわ。―――」 鏡の中で、廊下からうしろへ這入って来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛を渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据えながら、 「雪子ちゃん下で何してる」 と、幸子はきいた。 「悦ちゃんのピアノ見たげてるらしい」 ―――なるほど、階下で練習曲の音がしているのは、雪子が先に身支度をしてしまったところで悦子に掴まって、稽古を見てやっているのであろう。悦子は母が外出する時でも雪子さえ家にいてくれれば大人しく留守番をする児であるのに、今日は母と雪子と妙子と、三人が揃って出かけると云うので少し機嫌が悪いのであるが、二時に始まる演奏会が済みさえしたら雪子だけ一と足先に、夕飯までには帰って来て上げると云うことでどうやら納得はしているのであった。 (谷崎 潤一郎『細雪』、1943年発表)
さすが文豪というだけあって見事な文章ですが、同時に、現在ではあまり使われていない言葉や言い回し、表現がところどころに使われていることにも気づくと思います。
これらの文章を 日本語を学んでいる外国人が読む ものと考えてみて下さい。
「そんな日本語はもう使わないよ~」と言いたくなるかもしれません。たしかに現代のビジネスや日常生活では知らなくてもまったく困らないでしょう。古典や純文学を読むとは、そういった実用性云々を超越したレベルの話なのです。
夏目漱石、芥川龍之介、谷崎潤一郎の3人は、英語圏でいえばサマセット・モームやE.M.フォスター、ジェイムズ・ジョイス、ヴァージニア・ウルフなどとほぼ同年代の作家です。言語や社会的文脈が異なるので単純比較はできませんが、英語ネイティブにとっての古典は、私たちがこういった文語的でどこか懐かしい、非日常の特別な文章を読む感覚に近いということは言えると思います。
文学作品の英語難易度
もうお気づきかもしれません。英語のリーディング素材といえば、ビジネス書から小説、新聞までいろいろありますが、文学作品はあらゆる読み物の中で群を抜いて難易度が高いです。
なので、いわゆる古典と呼ばれるような作品に挑むには、その前段階として、英字新聞やベストセラー小説などを辞書なしで読めるレベルのリーディング力が最低限必要です。
純文学を読むために必要な英語スキル
そのためにお勧めしたいのが、精読(英文解釈)です。
一般に英語学習は「精読から多読へ」と捉えられているようですが、実は、上級者こそ精読のスキルが必要です。
これまでテキストをなんとなく感覚で読んできたというタドキスト(多読愛好者)は、ぜひこの機会に「じっくり丁寧に読む」ことを意識してみてください。
精読は翻訳者にも必要なスキルだよ!「深読み」力の身につけ方
文学作品を読む英語力を身につけるには、実際に文学のテキストを丁寧に読んでいくしかありません。
幸いなことに、最近では英米文学の専門家が書かれた素晴らしい英文解釈の本がいくつか出ていますので、それを利用するのがお勧めです。
おすすめの英文読解テキスト(レベル別)
では、文学作品を読むのに必要な英文解釈力を徹底的に鍛えられる書籍を レベル別に4冊 紹介します。
初級編 1.東大名誉教授と名作・モームの『赤毛』を読む 英文精読術 Red 中級編 2.英文学教授が教えたがる名作の英語 3.越前敏弥の英文解釈講義: 『クリスマス・キャロル』を精読して上級をめざす 上級編 4.英文精読教室 シリーズ(第1~6巻)まとめ
僕も学生時代によく読んだよ今回紹介したテキストをしっかりやりこめば、大学の英文科で4年間かけて学ぶ英文解釈力に匹敵するスキルが身につくと思います(もちろん英文科では英文解釈だけを学ぶわけではありませんが)。
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