階段行列
階段行列

階段行列

階段行列とは、主成分(各行の最も左にある0でない成分)が階段状に並ぶ行列です。任意の行列が行基本変形により階段行列へ変形可能であることを証明します。また、階段行列の段数が一意に定まり、それが行列の階数と一致する点について詳しく解説します。

このことは、例えば、次のようにして確かめられます。ある行列 $A$ を変形することで階段行列 $B$ を得られたとして、$B$ の $0$ でない成分を持つ行を $c$ 倍( $c \neq 1$ )して得られる行列を $B^$ とすれば、$B^$ は階段行列の条件($\text$)($\text$)を満たし、かつ $B \neq B^$ が成り立ちます。すなわち、ある行列 $A$ に対して、$2$ つの異なる階段行列 $B, B^$ が存在する、ということになります。

一方で、 定理 5.11より、$B$ と $B^$ の $0$ でない成分を持つ行の数はともに $A$ の階数($r$)に一致します。

以上から、もとの行列に対する基本変形の仕方によって、得られる階段行列の形は異なるが、いずれの階段行列においても $0$ でない成分を持つ行の数(階段の段数)は等しくなるということがいえます。

階段行列と簡約階段行列の違い#
  • 階段行列:階段の段数($0$ でない成分を持つ行の数)は一意に定まるが、行列の形は一意に定まらない。
  • 簡約階段行列:階段の段数($0$ でない成分を持つ行の数)も行列の形も一意に定まる。

簡約階段行列は、階段行列の条件($\text$)($\text$)に加えて更に $2$ つの条件を満たす、階段行列の一種といえます。すなわち、階段行列のうち($\text$)主成分がすべて $1$ であり($\text$)主成分の上の成分がすべて $0$ であるような行列が簡約階段行列となります。

証明#

$A$ を $(m, n)$ 型行列として、$A$ の階数を $r$ とする。$A$ のすべての成分が $0$ であれば $r = 0$ であるから、$A$ はすでに階段行列である。したがって、$A$ が少なくとも $1$ つの $0$ でない成分を持つとする。$A$ の第 $1$ 列が $0$ でない成分を持つとき、行を入れ替えることで $A$ の $(1, 1)$ 成分が $0$ でないように、すなわち、$a_ \neq 0$ となるように $A$ を変形できる。このとき、$A$ の第 $1$ 行を $>^$ 倍して第 $i$ 行に加えるという操作を $2 \leqslant i \leqslant m$ について繰り返すことで、$A$ は次のように変形される。

ここで、$A$ から第 $1$ 行と第 $1$ 列を除いた行列を $A^$ とする。また、$A$ の第 $1$ 列の成分がすべて $0$ であれば、$A$ から第 $1$ 列を除いた行列を $A^$ とする。$A^$ に対して上と同様の操作を繰り返すことで、次のような階段行列が得られる。

したがって、任意の $(m, n)$ 型行列 $A$ は、行基本変形により階段行列に変形することができる。得られた階段行列の階数は明らかに $r$ であり、もとの行列 $A$ の階数に等しい。$\quad \square$

証明の骨子#

$A$ を左から(第 $1$ 列から)みていき、$0$ でない成分があれば第 $1$ 行に移動させ、その成分を要(かなめ)に他の列を掃き出すという操作を繰り返すことで階段行列が得られます。

前提事項の整理#
  • 前提として、$A$ を $(m, n)$ 型行列、$A$ の階数を $r$ とします。
$A = O$ の場合#
  • すべての成分が $0$ である行列はすでに階段行列といえます。
    • $A$ のすべての成分が $0$ であるため、$A$ の階数も $0$($\, r = 0 \,$)となります。
    • このとき、 定義より階段行列は零行列 $O$ に等しく、したがって、$A = O$ はすでに階段行列であるといえます。
    $A \neq O$ の場合#
    • $A$ は少なくとも $1$ つの $0$ でない成分を持ちます。
    • $A$ を左から(第 $1$ 列から)みていき、$0$ でない成分があれば第 $1$ 行に移動させ、その成分を要(かなめ)に他の列を掃き出すことで階段行列が得られます。
      • $A$ の第 $1$ 列が $0$ でない成分を持つならば、行を入れ替えることで $A$ の $(1, 1)$ 成分が $0$ でないように、すなわち、$a_ \neq 0$ となるように $A$ を変形します。( 基本変形($3$)「$2$ つの行を入れ替える」)。

      $$ \begin A = \begin a_ & a_ & \cdots & a_ \\ a_ & a_ & \cdots & a_ \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_ & a_ & \cdots & a_ \\ \end, & a_ \neq 0 \end $$

      • この操作により、$A$ の第 $1$ 列は $(1, 1)$ 成分より下の成分がすべて $0$ に等しくなります。
      • この操作は「$(1, 1)$ 成分を要(かなめ)として第 $1$ 列を掃き出す」などと表現されます。
      • 以上から、任意の $(m, n)$ 型行列 $A$ は行基本変形により階段行列に変形することができることが示されました。
      • また、得られた標準形の階数は明らかに $r$ であり、もとの行列 $A$ の階数に一致します。
        • このことは、 定理 5.10(基本変形と階数)により、基本変形によって行列の階数が変わらないことから納得できます。
        • あるいは、次のようにしても確かめることができます。
          • $A$ の行ベクトルを $\bm^_, \cdots, \bm^_,$ $\bm^_, \cdots, \bm^_$ として、$A$ を行ベクトルにより表すと次のようになります。
          $$ A = \begin \bm^_ \\ \vdots \\ \bm^_ \\ \bm^_ \\ \vdots \\ \bm^_ \end $$

          まとめ#

          • 任意の行列は、行基本変形により階段行列に変形することができる。
          • 階段行列の段数($0$ でない成分を持つ行の数)はもとの行列の階数に等しい。
          • 階段行列は一意に定まらないが、段数($0$ でない成分を持つ行の数)は一意に定まる。