前立腺がんの手術:開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術の解説
前立腺がんが転移していない人は治療法として手術が選べます。手術では前立腺と精嚢、リンパ節が取り除かれます。ここでは手術の方法や合併症などを説明します。
前立腺がんの手術は 全身麻酔 で行われます。 術後は問題なければ手術室にいるうちに目覚めます。全身麻酔中は呼吸を助ける管を気管に挿入していますが、多くの場合、この管も手術室で抜くことができます。状態の安定が確認された後に、手術室から集中治療室( ICU )または病棟に移動します。手術の直後は出血などの問題が発生しやすいので、慎重に経過が見られます。 術後の出血や尿量などを正確に把握するために、ドレーンと呼ばれる管がお腹に入っていたり、排尿のための管(尿道カテーテル)が尿道から挿入されています。
7日前後で膀胱と尿道のつなぎ目を調べる検査( 膀胱尿道造影検査 )が行われ、十分にくっついていると判断されれば尿道カテーテル(排尿のための管)が抜かれます。
5. 前立腺がんの手術後の生活について
日常生活の注意点- 食べ過ぎない
- 長時間の自動車の運転は避け、自転車には乗らない
- 激しい運動を控える
■長時間の自動車の運転は避け、自転車には乗らない自転車のサドルや車の座席は、膀胱と尿道のつなぎ目( 縫合 部)を刺激しやすく、痛みや違和感の原因になることがあります。手術後しばらく(目安として1か月程度)は、長時間の運転や自転車は控えるのが安心です。
手術の後遺症- 排尿をコントロールする筋肉(尿道括約筋)の機能が弱くなる
- 前立腺が取り囲んでいた部分の尿道を取り除くことによって尿道が短くなる
多くの人は日常生活に支障が少ない程度まで回復しますが、なかには尿もれが強く残る人もいます。重症の尿もれ(例:術後6か月時点で1日の尿もれ量が多い場合など)では、治療として 人工尿道括約筋(例:AMS-800®)埋め込み術 が検討されることがあります。尿もれが完全にゼロになるとは限りませんが、尿取りパッドが少ない枚数で済むようになることが期待できます(成績は報告や個人差があります)。
一方で、がんが神経の近くに広がっている可能性が低いと判断される場合には、勃起機能を重視して神経を残す(温存する)手術が行われることがあります。両側を温存する方法(両側神経温存)と、片側のみ温存する方法(片側温存)があります。ただし神経を温存しても、勃起機能が必ず保たれるとは限りません。必要に応じて、手術後に 内服薬 などで勃起機能の改善を図ることがあります。
6. 手術後にも治療を続けた方がよい人について
手術で治療が完結する人がいる一方で、手術後に再発リスクが高いと判断され、追加の治療(追加治療)が検討される人もいます。追加治療が必要かどうかは、主に 病理検査 の結果(取り切れたか、がんの広がり、リンパ節の転移など)や、術後のPSAの推移をもとに判断されます。
- リンパ節に転移があった人
- 前立腺に隣接する精嚢にがんが及んでいた人
- がんを取り切れていない可能性がある人
追加治療としては、 放射線治療 (前立腺床への照射)が検討されることがあり、再発リスクに応じて ホルモン 療法(ADT)を組み合わせることもあります。また、 リンパ節転移 がある場合などでは、病状に応じてホルモン療法が中心になることもあります。
7. 前立腺がんが手術後に再発した場合について
生化学的再発について救済放射線治療は、一般にPSAがあまり高くならないうちに開始した方が効果が期待できるとされ、目安としてPSAが低い段階(例:0.5 ng/mL未満など)で検討されることがあります。ただし、開始のタイミングは病理 所見 やPSAの上がり方、患者さんの状態によって決まります。
臨床再発について臨床再発は画像検査( CT 検査、 骨シンチグラフィ ーなど)で再発部位が確認された状態です。前立腺がんの再発が見つかりやすいのは次の臓器です。
生化学的再発の後、時間をおいて臨床再発が見つかることがありますが、その期間は個人差が大きく、手術前のがんの性質によっても変わります。臨床再発が確認された場合、治療の中心は薬物療法になります。状況に応じて、ホルモン療法(ADT)に加えて新規ホルモン薬(ARSi)や 抗がん剤治療 などが検討されます。
8. 手術について知っておくとよいことやよくある質問について
前立腺がんは手術をするべきなのか低リスクの前立腺がんは、一般に進行がゆっくりです。そのため、低リスクの中でも一定の条件を満たす場合には、すぐに治療を始めず、PSA値や MRI 検査、前立腺 生検 などで経過をみながら必要なタイミングで治療を開始する PSA監視療法(積極的監視) を選択できることがあります(条件の詳しい内容は「こちらのページ」を参考にしてください)。
「がんがあるのに、すぐ治療しない」と聞くと心配になるかもしれません。しかし低リスク前立腺がんでは、前立腺がん自体が原因で命に関わる可能性がもともと低いことが多く、他の病気( 感染症 、他のがん、心筋梗塞、脳卒中など)が 予後 に影響することも少なくありません。監視療法は、こうした前提のもとで「治療の利益と、治療の副作用(尿失禁や性機能への影響など)を天秤にかけて選ぶ」方法です。
年齢 平均余命(男、2015年) 平均余命(女、2015年) 65 19.46 24.31 70 15.64 19.92 75 12.09 15.71 80 8.89 11.79 85 6.31 8.40 90 4.38 5.70高リスク前立腺がんは、 悪性度 が高い、あるいはがんの広がりが大きいなどの理由で、再発の可能性が高いと考えられる状態です。そのため、治療は手術だけ、放射線治療だけで完結するというより、再発を下げる目的で薬物療法(ホルモン療法)を組み合わせるなど、集学的治療が必要になることが少なくありません。
ロボット手術について■ロボット手術のメリット医師の立場で考えると、ロボット手術には主なメリットが3つほどあります。 1つ目のメリットは、3Dの視野で手術ができる点です。 ロボットの カメラ には2個のレンズが隣り合ってついています。2個のレンズで撮影した画像をコンソールから見ると、ステレオグラムの原理で立体的に見えます。3D映画と似た感覚です。特に前立腺のように体の中の深い場所にある臓器の摘出には、立体感を掴むことが重要なので、3Dの視野が有効に働きます。筆者もロボット手術の経験がありますが、ロボット手術では3Dの世界に入り込みまるで自分がその人の体の中に入って手術をしているような感覚があります。
2つ目のメリットはカメラを執刀医が自分で思い通りに動かせる点です。専門的な話になりますが、腹腔鏡手術の視野を決める 内視鏡 の操作は助手が行います。助手は執刀医が見たいところを察して操作する必要があります。執刀医と助手のコンビが経験豊富で息が合っていても、やはり自分の見たい場所は自分でしかわからないところがあります。ロボット手術では執刀医自らが操作台から内視鏡を動かしますので、無駄のないカメラワークが可能になります。
3つ目のメリットはロボットの関節が自由自在に動くことです。腹腔鏡手術では、手術器具を動かせる範囲がかなり制限されるので、腹腔鏡手術で縫合などの細かい操作をするためには高度な技術が要求されます。一方で、ロボット手術では、先端が自由に動く関節を有するために細かな操作の精度が上がって、より確実な手術が可能となりました。
■ロボット手術のデメリットロボット手術では執刀医に触覚が伝わりません。つまり、執刀医の手が直接患者さんに触れてはいないので、切ったり縫ったりするときの手応えがありません。触覚がない点は、ロボット手術が開腹手術に劣る点と考えられています。 他のデメリットとして、ロボットの故障や、不具合があります。故障や不具合は非常に少ない確率とはいえ、機械を使用する以上避けることはできません。腹腔鏡手術であるならば大抵は予備があるので、不具合が発生しても交換して手術続行が可能です。一方で、ロボット手術では故障の程度によっては手術の続行が不可能になることがあります。その時は緊急に開腹手術や腹腔鏡手術に変更されます。
勃起神経の温存について リンパ節郭清について 手術後の病理検査の結果について- どの程度がんが進行していたか
- どの程度の範囲までがんが広がっていたか
- がんは取りきれたのか
- 術前の予測よりがんが進行していた
- がんが大切な正常組織の近くにあり、広く切ることができなかった
「がんを取りきれなかった」と聞くと不安になるのは自然です。ただし前立腺がんでは、たとえ切除断端陽性などがあっても、放射線治療やホルモン療法など有効な追加治療が残されています。 状況に応じてこれらを組み合わせることで、がんを長期にわたってコントロールできる可能性は十分にあります。
前立腺がんの再発率は?前立腺がんの手術の再発率は、リスク分類によって大まかに予測できます。リスク分類ごとの5年の生化学的再発率の大まかな値は以下です。
- 低リスク:5−10%が5年間に生化学的再発あり
- 中間リスク:15-30%が5年間に生化学的再発あり
- 高リスク:30-55%が5年間に生化学的再発あり
・「前立腺がん診療ガイドライン」・「標準泌尿器科学」、(赤座英之/監)、医学書院、2014・JAMA 1998;280:969-974.・JAMA 1999;281:1591-1597・厚生労働省「簡易生命表」平成27年
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