星と月は天の穴 : 特集
星と月は天の穴の必見、注目特集。特集では編集部独自の視点で魅力を紹介。
【“愛と性”を語ることは、“生きること”を語ること】こじらせ男性43歳の独り暮らし、滑稽さ、おかしみ。なじみの娼婦、偶然出会った女子大生との情事。乾いた日常に強烈な一滴を垂らす、今年最後に観るべき邦画
12月19日公開の映画「星と月は天の穴」を観終えて胸に残ったのは、抑えていた本能を呼び起こされたような“昂ぶり”でした。
滑稽で、情けなくて、切なくて、けれど可笑しみに満ちた愛の行方を、エロティシズムとペーソスを織り交ぜ軽やかに描き出しています。
綾野剛の枯れた熱演、荒井晴彦監督の50年の執念が生んだ映像美、情欲の先にある生の実感。「星と月は天の穴」は、 おそらく今年最後に観るべき日本映画 ――その魅力・概要と、実際に観た感想をお伝えします。
【2025年最後に観ておくべき日本映画がやってきた】美しく可笑しく軽やかに、“人間の本能”を描く渾身作
【乾いた日常に、強烈な一滴を垂らす“物語”】なじみの娼婦、偶然出会った女子大生との情事。理性と本能を暴く、切実さと可笑しみに満ちた117分間。そんなある日、画廊で偶然出会った女子大生の紀子(演:咲耶)と、車での粗相をきっかけに奇妙な情事へと至る。 無邪気に、しかし大胆に心へ踏み込んでくる紀子に翻弄され、矢添の日常は大きく揺らぎ始める。
1969年という“熱気の時代”を背景に描かれる人間模様は、ただの三角関係では終わりません。濃密な色気が劇場に立ち込め、観ているこちらの理性まで溶かすような、上質なドラマが待っています――。
あらすじなどから「官能的な映画」と感じたのなら、ぜひその先に進んでみてください。「星と月は天の穴」の本質、それは、求め合う情欲の向こう側で “生きること”そのものが手招きしている ことです。
性と生は言うまでもなく密接に絡みつき、性が生を強調し、生が性を美しくもする。ゆえに本作は、愛と性を語ることで、 強烈な“生きる実感”を与える渾身の一撃 でもあります。
あふれる物質と情報、SNSやAIなどによるフェイクが、人の生きる実感を奪っていく世の中だからこそ、人間臭さと快楽を伴って「生」を実感させてくれる本作は、今、私たちが体験すべき必然の一本なのです。
そして原作は「驟雨」などの芥川賞作家・吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞小説。18歳当時、まだ女性を知らなかった荒井青年は、同小説の「情事宿の床に落ちていた、絡み合った男女の毛」を見て欲情する描写に、雷に打たれたような衝撃を受けたといいます。
“性とは体だけでなく、頭(想像力)でするもの” 。愛と性を描き続ける荒井監督が「いつか映画にしたい」と願い続けた正真正銘・悲願の企画が、約50年の時を経てスクリーンに結実しました。
キャストには主演に綾野剛。小説家・矢添役と、矢添が自身を投影して執筆する小説の主人公“A”を演じ、得も言われぬムードを醸し出しています。
ほか、オーディションの最後に現れ監督の迷いを吹き飛ばしたという新星・咲耶、「花腐し」でも好演した柄本佑、人気セクシー女優のMINAMO、そして日活ロマンポルノで知られる大女優・宮下順子、日本映画界に欠かすことのできない田中麗奈ら、荒井組の常連や個性豊かな面々が集結。
さらに特筆すべきは、モノクロームの映像美。 下着の白さ、夜の黒。あえて色を排したざらついた世界の中で、情動を表すパートカラーの「赤」が際立つ。あらゆる感覚が鋭敏に研ぎ澄まされる甘美な世界。映画館の暗闇で、堪能してみませんか?
【レビュー】ぜひ“上質映画を見る喜び”に浸ってほしい綾野剛の名演、本能が解放される描写、非常識な興奮…
●筆者紹介 【綾野剛が愛おしくてたまらない】 女性を”遊ぶ”つもりが、いつの間にか”遊ばれている”――? サディズムとマゾヒズムを反復横とびする“枯れた名演”に唸りっぱなし
主演・綾野剛の凄まじさ。 変幻自在、強烈怒涛、演じるというより“そこに生きている”――2025年は「でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男」「愚か者の身分」と素晴らしい主演・出演作が続きましたが、本作では 枯れた名演 が目を引きます。
とにもかくにも、全編通じて綾野剛が愛おしい。演じた矢添は、ときに女性を「道具」と呼び、女性に支配的な態度をとります。ゆえに女子大生の紀子にも当初は「遊んでやる」姿勢だったわけですが、気づけば逆に支配されている……そんな逆転劇が面白くてたまらないのです。
「(原作小説について)妻に裏切られ、愛とか恋とかいう情感を持ち込むのを拒否し、女を『道具』として扱おうと思っている男が『道具』に敗けてゆく小説だった」
かように、矢添は局面局面で「サディズム(支配)」と「マゾヒズム(被支配)」を反復横跳びするように揺れ動く――これこそが本作の白眉! 攻守が目まぐるしく入れ替わる関係性は、観る者に自身の性癖を見つめさせ、その果てに「自分は何を求めて生きるのか」という本質的な問いにたどり着くのです。
筆者は男として“刺さり”ましたが、きっとあらゆる立場の人が、この不器用な男の中に「自分」を見つけてしまうはずです。
大胆で美しいラブシーンの凄まじさ。一方で、ちりばめられたメタファーを読み解く“知的な興奮”もまた凄まじいからこそ、筆者は「星と月は天の穴」に魅了されてやみません。
本作は“歯”の物語でもあります。(ネタバレではないのであえて書きますが)作中で明かされる矢添のコンプレックスは「若くして総入れ歯である」ということ。口腔衛生は親が子どもにするケアでもあるので、歯は“親からの愛”の象徴とも読み取れます。
このように、一つの描写から幾重もの意味が立ち上がり、読み解くほど物語の芳醇な香りがブワッと広がる。そしてまた、凶暴なまでに美しい肉体的シーンの数々を目の当たりにし、頭と身体がみるみる火照りだす――。
そうして、日常で抑えていたはずの本能が一息に解放されていく。これぞ大人が味わうべき「上質な映画体験」だと、筆者は思います。
本作の情欲と哀愁の向こう側に、理屈を超えた“熱”があるように感じられることに注目してください。
2025年が終わり、2026年が幕を開けます。ぜひ劇場の暗闇で、この映画の“一滴”を受け止めてください。
PRESENTED BY ハピネットファントム・スタジオインタビュー
綾野剛が“言葉を纏って”表現した文学と官能 吉行淳之介原作、荒井晴彦監督「星と月は天の穴」関連ニュース
映画.com注目特集
おすすめ情報
特別企画
注目作品ランキング
- 1 映画 えんとつ町のプペル 約束の時計台劇場公開日 2026年3月27日
映画ニュースアクセスランキング
- 昨日
- 先週
- (C)2025「星と月は天の穴」製作委員会 /
- 「ナイトフラワー」(c)2025「ナイトフラワー」製作委員会 /
- 「キング・オブ・キングス」(C)2025 MOFAC Animation Studios LLC. /
- 「フェザーズ その家に巣食うもの」(C)THE THING WITH FEATHERS LTD / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2025 ALL RIGHTS RESERVED. /
- 「映画 えんとつ町のプペル 約束の時計台」(C)西野亮廣/「映画 えんとつ町のプペル 約束の時計台」製作委員会
© eiga.com inc. All rights reserved.