立原道造のソネット「はじめてのものに」
立原道造の詩「はじめてのものに」は、どこか謎めいていて、人を惹きつける魅力があります。さっそく以下で全文を引用して、解釈していきますね。はじめてのものにささやかな地異ちいは そのかたみに灰を降らした この村に ひとしきり灰はかなしい追憶のや...
はじめてのものに
ささやかな 地異 ちい は そのかたみに 灰を降らした この村に ひとしきり 灰はかなしい追憶のやうに 音立てて 樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた
その夜 月は明かつたが 私はひとと 窓に 凭 もた れて語りあつた(その窓からは山の姿が見えた) 部屋の隅々に 峡谷のやうに 光と よくひびく笑ひ声が溢れてゐた
――人の心を知ることは……人の心とは…… 私は そのひとが蛾を追ふ手つきを あれは蛾を 把へようとするのだらうか 何かいぶかしかつた
いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか 火の山の物語と……また幾夜さかは 果して夢に その夜習つたエリーザベトの物語を織つた
- 立原道造「はじめてのものに」~鑑賞・解説~
- 「はじめてのものに」の解釈は?
- 題名:はじめてのものに
- 第一連:ささやかな地異
- 第二連:ひと
- 第三連:蛾を追ふ手つき
- 第四連:灰の煙・エリーザベト
立原道造「はじめてのものに」~鑑賞・解説~
「はじめてのものに」は、恋のはじまりの詩であると同時に、実は恋のおわりの詩でもあるのだと。はじまりとおわりが共存しているから、謎めいているのだと気づきました。
「はじめてのものに」の解釈は? 題名:はじめてのものに「はじめてのものに」は、立原道造の第一詩集「萱草に寄す」の冒頭を飾る詩です。
この詩はタイトルからして含みがあり、読む人を詩の世界へと誘います。
第一連:ささやかな地異立原道造が毎夏を信州で過ごしていたことから、「ささやかな地異」は浅間山の噴火、「この村」は追分村と言われています。
「灰」は心が燃えて生じたもの、つまり、恋のはじまりを予感させます。ただ、死を連想させる「かたみ」に「かなしい追憶のやうに」「降りしきつた」ことから、恋のおわりを示しているようにも見えます。
第一連の不思議なところは、これが恋のはじまりとも、恋のおわりとも解釈できるところ。
第二連:ひと「ひと」というのは、若い女性のことです。
彼女と窓に 凭 れて語りあったことや、光と笑い声が溢れていたという描写から、幸せで寛いだひと時であったことが察せられます。
第三連:蛾を追ふ手つき「蛾を追ふ手つき」は、どこか不吉なものを感じさせますね。
光を求めて飛ぶ蛾は、彼女に惹かれる「私」の暗喩でしょうか。「私」を、彼女は避けようとしているのか、それとも受け入れようとしているのか、人の心はわからない……と悩みはじめます。
第四連:灰の煙・エリーザベト「いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか」は、藤原定家の短歌の本歌取りです。
「エリーザベト」は、ドイツの小説家・シュトルムの名作「みずうみ」の女主人公の名前です。この小説では、幼なじみでお互い好意を抱いていた男女がすれ違い、別れるさまが描かれています。
ここで押さえておきたいのは、「みずうみ」が別れの物語であること。「私」の恋も、やがて悲しい結末で終わることを暗示させます。
【まとめ】「はじまり」と「おわり」が共存している世界立原道造の「はじめてのものに」について紹介しました。
くり返しますが、「はじめてのものに」は、恋のはじまりの詩であると同時に、実は恋のおわりの詩でもあります。
「はじまり」と「おわり」が共存している世界を、立原道造は構築したかったのはないかと、私は最終的にそう解釈します。
現実から飛躍した時空間がそこにあるから、謎めいた魅力があります。
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