【真相】川越線デッドロックの原因と「異線進入」騒動の顛末
【真相】川越線デッドロックの原因と「異線進入」騒動の顛末

【真相】川越線デッドロックの原因と「異線進入」騒動の顛末

【真相】川越線デッドロックの原因と「異線進入」騒動の顛末 川越線の当該区間は「単線自動閉そく式」という閉そく方式が取られています。自動閉そく式では駅間に複数の連続した軌道回路が設けられ、それぞれの閉そく区間に2以上の列車が入線しないよう信号機が制御されます。加えて、単線区間では 駅やCTCに「方向てこ」が設けられます 。方向てこが扱われると

川越線の当該区間は「単線自動閉そく式」という閉そく方式が取られています。自動閉そく式では駅間に複数の連続した軌道回路が設けられ、それぞれの閉そく区間に2以上の列車が入線しないよう信号機が制御されます。加えて、単線区間では駅やCTCに「方向てこ」が設けられます。方向てこが扱われると駅間の一方の方向の閉そく信号機が青に、逆方向の閉そく信号機が全て赤に変わり、さらに着駅側の出発信号機も定位(停止現示)に鎖錠されるので列車を運行しようとしている方向と逆方向の列車は運転できなくなります。方向てこは発駅の出発信号機が青になってから列車が他方の駅に到着するまで鎖錠されるので、駅員や指令員の勘違いでてこが復帰されることはありません。このため、運転保安設備が正常に作動している限り、1つの駅間で互いに反対方向の列車が同時に運転されることはないといえます。

単線自動閉そく式の方向てこ

川越線の特殊性とデッドロックの原因

このように、「運転保安設備」と「運行管理システム」の2重のチェックが働いているにも関わらず、なぜ単線区間に2つの列車が入線する事態になったのでしょうか。鍵は、南古谷駅の特殊な配線にあります。

南古谷駅には川越車両センターが隣接しており、同センターへの連絡線が接続しています。連絡線は駅旅客ホームのすぐ指扇側から分岐しているほか、ホームから約1.7km離れた箇所にも指扇方面からの入出庫のための連絡線があります(以下、この地点を地点Aとします)。このため、同駅には駅ホームに第1出発信号機が設けられているほか、その先に第2出発信号機、さらに地点Aのすぐ手前に第3出発信号機が設置されていました。

川越線指扇~南古谷間の配線略図と信号機の位置(一部のみ記載)

第3出発信号機は、当然ながら指扇~南古谷間の「方向てこ」が上り方向にならなければ青にはなりません。これは上で説明した原則の通りです。ところが、第1・第2出発信号機は「方向てこ」に関わらず青になる仕様だったようです。これは、回送列車の設定を柔軟にできるようにするためだと考えられます。たとえば、指扇駅から地点Aの連絡線を経て川越車両センターに入庫する下り回送列車を運転しているときに、第1出発信号機を青にして南古谷駅ホームから上り列車を出発させれば、それだけ列車間隔を詰められることになります。このとき、進路が開通しているのは地点A手前の第3出発信号機までなので、地点Aから車庫に入る回送列車と正面衝突することはありません。

下り回送列車と上り列車の同時運転

運転保安設備がこのような仕様である以上、今回のような事象は「運行管理システム」が防ぐべきでした。後述する通り、発生直後には誤って指令員が下り列車の進路を車庫側に構成してしまったのではないかと疑う向きもあったのですが、4月16日に公開された労組資料により運行管理システムの不具合が原因と明らかになりました。

ところが、この時すでに指扇駅では下り列車を南古谷方面に運行させるために出発信号機が制御された状態でした。本来なら指令員が入力した交換駅変更の指示は運行管理システムの中央装置側で不受理となるはずだったのですが、これが不具合でなぜか受理されてしまったそうです。そのため、交換駅変更の指示は運行管理システムの駅装置に送信され、南古谷駅の装置はこれを受理したものの指扇駅の装置は不受理となりました。結果、2つの駅でダイヤの情報が不一致となり、両方の駅から列車が出発してしまうこととなりました。

デッドロックの発生経緯

もちろん、上記は運行管理システムの不具合の話であり、事故を回避する最後の砦である運転保安設備は正常に働いていたことになります。実際、両列車は地点Aをはさんでそれぞれ南古谷駅の第1場内信号機・第3出発信号機の手前で停止し、正面衝突という最悪の事態は免れました。しかし、両列車に乗車していた乗客はデッドロックが解消するまで長時間列車に閉じ込められることになり、運行管理システムの不備の代償は大きなものとなりました。

※本記事執筆後、6月27日に東京新聞がデッドロックの原因について詳細に報道しました。ATOSに不具合があった事実やその内容について労組資料の記述内容の裏が取れたほか、新たにATOSを製作した日立製作所が不具合を認め謝罪したこと、システムの改修を3月4日までに終えていることが判明しています。(2023年12月11日追記)

異線進入説について

ここまでがデッドロックの発生原因の解説となりますが、インターネット上には上記と異なる説がはびこっています。これは、指令員が誤って下り列車に対して川越車両センターへ入庫する進路を引いたためにデッドロックが起こったという説です。本章では、そのような説が広まった経緯について振り返っていきます。

デッドロック発生直後~翌日朝の動き
  • 2つの列車が地点Aをはさんでそれぞれ場内信号機の手前で停車している
  • 上り列車が南古谷駅ホームまで退行して運転再開した

このように、状況がよく分かっていない状況では様々な原因が考えられました。当時は私も川越車両センターへの誤った進路構成の可能性が最も大きいと考えていましたし、それを支持する証拠(例えば現地の信号機の現示状況など)が出てくれば紹介しようと思っていました。

ところが、何も証拠がないうちから「指令員が誤って川越車両センターへ進路を構成した」「下り列車の運転士が異線進入に気づいて列車を停めた」という風説がTwitter上で広まり始めました。当初は「~~だろう」という憶測だったのが「~~らしい」という伝聞、さらに「~~だった」という事実へと誇張され、「下り列車の運転士グッジョブ」などとどんどん拡散されていきました。いずれも「色々な情報に基づくと~」という枕詞のついた根拠不明の主張です。さらに、複数のアカウントによる図付きの解説(うち1アカウントは現役の鉄道関係者を名乗るアカウント)もあり、YouTubeでも解説動画が作成されて既成事実化されていきました。もちろん、複数の説を併記するSNS投稿や解説動画もあったものの、かき消される勢いでした。

また、事象発生の翌朝に労組系のTwitterアカウントが「重大インシデント(級)」の事象だと投稿して炎上する騒ぎも置きました。今回の件は重大インシデントでないので労組の批判は少々誇張したものと言わざるを得ませんが、それでも、当初から運行管理システムに不具合があったと情報を得ていた労組側と、異線進入説を信じ切っていた趣味者との間ですれ違いがあった面は否めません。

発生翌日夕方~1週間後の動き

このような中、風向きが変わり始めたのは翌日の夕方に配信されたNHKのニュースで、ここでは「信号システムの不具合」と報じられました。

また、翌週になると複数の労組から双方の列車の運転士の証言を含む断片的な情報が出始めました。

ここにきて、私を含め多くの方は異線進入説を捨てるに至りました。双方の列車が信号機の停止現示により停車したこと、その際対向列車の前照灯を視認してもデッドロックが発生していることにすら気づかなかったことからそれは明らかです。また、後者の資料からは列車種別の設定ではなく交換駅変更の入力で何らかのトラブルが発生したことがうかがえる記述もあります。

ところが、この段階でもなお、異線進入説を支持する方が、特に鉄道や信号に関して詳しそうな方々の中に散見されました。労組資料の記述に対して明らかに無理のある解釈を加えてみたり、労組が保身のために嘘をついていると主張してみたりと様々でしたが、もはや困惑を通り越して恐怖すら覚えました。

まとめ

現在もインターネットには異線進入説を断定的な口調で解説する記事や動画が溢れています。今回は労組が詳細な資料を公表したためにこれらが誤った情報であることがはっきりしたものの、一歩間違えれば不正確な情報が事実として後年まで伝えられてしまう事態となる可能性もありました。私も情報を発信する側の端くれとして、以後十分に気を付けていきたいと思います。

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特集記事一覧 公開日 2023年4月23日

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