自由エネルギー原理にとりあえずの見切りをつけるために考えてみた
自由エネルギー原理には前々からしっくり来るところがなかった。私自身は予測符号化について勉強することから始めたので、自由エネルギー原理には後から接したことになる。自分は予測符号化には好意的だ。 しかし、自由エネルギー原理の源には予測符号化があるはずなのに、自分は自由エネルギー原理にはどうも馴染めなかった 自由エネルギー原理は現在流行っている最中で、認知科学オタクの私としては無視しきることはしがたい。とはいえ、予測符号化の拡張としての予測処理には個人的に興味が持てるのだか、自由エネルギー原理と予測処理との関係にははっきりしないところがあって、ずっとモヤモヤが拭えなかった Daniel Willia…
自由エネルギー原理(FEP)を巡る現在の関心と論争の多くは、二つの特徴的な主張から起こっている:(1)それ(FEP)は自己組織化するシステムが存在する可能性の条件を定める、つまり「自由エネルギーを最小化しない自己組織化するシステムは存在できない」。(2)そこ(FEP)には、どのように脳が働くかを我々が理解するための重要な含意があり、「脳の統一理論」(Friston)や「認知科学と生物学のための大統一原理」(Hohwy)が提示されている Daniel Williams "Is the brain an organ for free energy minimisation?" p.2より
生物学的なシステムの適応的行動についての自由エネルギー手法(FEA)の見方には、驚き最小化が予測処理論で示されるような階層的モデルによって実行されるべきと要求する何かがあるわけではない…と気づく価値はある。とはいえ、他の予測処理論の文献では自由エネルギー手法と予測処理論の間にはきっちりした関連があるとする論者がいる…と分かっておくのも重要だ María Jimena Clavel Vázquez "A match made in heaven: predictive approaches to (an unorthodox) sensorimotor enactivism" p.664の注13より
自由エネルギー原理(FEP)は正確には何を予測し何を予測しないのか?この話題について語るのは易しくない、なぜなら自由エネルギー原理の適用の基盤に横たわる仮定は従順に変わりうるからだ(異なる適用によって異なる生成モデルや異なるアルゴリズム的な近似や異なる神経的な実装となる) Samuel J. Gershman "What does the free energy principle tell us about the brain?" p.1
自由エネルギー原理と予測処理論に直接のつながりがある訳ではないことを、Daniel Williamsは「予測処理への高架道はない」("There is no high road to predictive processing")と表現している。Daniel Williamsはそれを示すために、自由エネルギー原理(FEP)を説明的FEPと記述的FEPの二つの可能な解釈に分けて説明している
自由エネルギー原理についての超越論的議論実はDaniel Williamsの論文は、ここからが肝であると同時に罠だらけでもある。説明的FEPと記述的FEPについて議論する上で、超越論的議論(transcendental argument)にかなり頼ることになる。だが困ったことに、論文中に超越論的議論についてはあまり説明されていない
つまり、生きたシステムは驚きを最小化するはずだという主張は、自由エネルギー原理(FEP)そのものと置き換えられる。「非均衡安定状態を達成する全ての『もの』は、基礎的なベイズ推論(要するに自由エネルギー最小化)を成し遂げるかのように説明できる」 Daniel Williams "Is the brain an organ for free energy minimisation?" p.6より
説明的FEPと記述的FEPを論ずる 説明的FEPを吟味する説明的FEPについては、超越論的議論を持ち出して話がややこしくはなっている。簡単に言えば、自由エネルギー原理はメカニズムを特定しないので説明的FEPには問題があるとなっているだけだ 2 。どうもDaniel Williamsの議論に切れを感じれない
記述的FEPを吟味する記述的FEPとは、(メカニズムによる説明というよりも)生き物の行動を「自由エネルギーの最小化を含んで再記述できる」(Daniel Williams 2021,p.12)とする解釈だ 3
例えば自由エネルギー原理でも論じられる真っ暗闇問題(dark room problem)とは、刺激がなければ驚き(予測誤差)も起こらないので動く必要がなくなる問題だ。ということは、自由エネルギー原理での振る舞いの複雑さは環境の複雑さを反映してるだけであり、環境が単調なら均衡点が存在しうるはずだ。もしかしたら自由エネルギー原理は偽装した均衡システムかもしれないが、だとしてもそれは予測処理論にも当てはまるのでここではこれ以上は議論しない 5
おわりに- これはトートロジーでは?という批判は受け付けない。文句のある奴は自分で勉強しろ!超越論的議論についての説明はここでの主眼ではない↩
- ワットガバナーや境界を持った人工知能を挙げて、それらが変分ベイズが実装されてる訳ではない…とする説明もあるが、そもそもそれらは自己組織化システムとして相応しい事例なの?と疑問しかない↩
- 記述的FEPにとって、必要なデータが行動だけなのか?例えば脳の物理的状態のデータは必要ないのか?いろいろ疑問が湧かなくもないが、話がややこしくなりそうなのでここでは問わない↩
- 自由エネルギー原理でよく見る四対の図が社会学者パーソンズのAGIL理論と似ていることも均衡システムを思わせたきっかけだが、私は社会システム理論にそこまで詳しくない上に話がややこしくなるので、本文では省略した↩
- 物理学的な均衡とゲーム理論における均衡は違うよ!と言う人はいるかもしれないが、そもそも自由エネルギー原理が物理的レベルの話なのか?情報的レベルの話なのか?(ここまでの議論を見ても)よく分からない。物理的には非均衡システムだが情報的には均衡システムだ…というのは、もしかしたらあり得るのかもしれないが、ならば曖昧にごまかさずにちゃんとそういう議論もしろ!…としか言えない↩
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