バイオリンクの片隅から
これまで北山クラブという山の会について何度か書いてきた。現在の会長は、筑波大学名誉教授の西原清一さんである。小生にとっては、このクラブを通じて知り合った...
これまで北山クラブという山の会について何度か書いてきた。現在の会長は、筑波大学名誉教授の西原清一さんである。小生にとっては、このクラブを通じて知り合ったよき先輩、友人であり、過去の記事に何度も登場している。古い記事を読んでいる方はご存じのはずだが、彼は二代目の会長となり、前会長の遺稿集「北山に入る日」を編集したり、ヒノコ小屋を管理したり、「ヒノコ小屋便り」というメルマガを発刊したりと、クラブの存続のために文字通り孤軍奮闘されてきた。しかし、昨年8月21日付けのメルマガに、自身の体調不良と先の見えない不安感のようなことを書かれた後、メルマガが届かなくなった。 昨年の9月9日に西原さんと昼食をともにしたことは以前のブログに書いた。そのとき彼は、いくつか気になる症状を訴えていた。当時、小生はうつ病で心療内科に通院中だったが、身体的にはどこも悪いところがなかった。だから、彼の不可解な症状の原因を知ろうとしたが、自分のことは気にも留めなかった。まさか、自分が2週間後に脳炎を発症し、大学病院に緊急入院することになるとは予想もしなかった。人生一寸先は闇、次の日に何が起こるかわからない。小生は無事退院したが、メルマガと同時にメール交換もなくなり、彼がどうしているのか知りようがなかった。 今年2月になって途絶えていたメルマガが再刊されたが、以前のような山行きの報告はなく、ご自身の体調に関する記述が増えているのが気がかりだった。今月24日にこちらから送ったメールをきっかけにメール交換が復活した。そして、27日(木)の昼に、ついに西原さんに再び会うことができたのである。かつて、定期的に会っていたのと同じ場所、すなわち、びわ湖ホールのカフェテリアで、サイコロステーキとホットコーヒーのランチを注文し、窓際の席に座って食べながら様々なことを話し合った。 彼は、現在の病状について語り、小生は、脳炎罹患中に感じたことを話した。暗い話題が多い中で、明るいニュースもあった。それは、北山クラブの趣旨に共感して西原さんの仕事を手伝ってくれる人が現れたことである。その人は、50歳台のサラリーマンで、西原さんの信奉者となってメルマガを手伝ってもらっている、ただし、彼も腰痛で苦しんでいる、とのことだった。 その日の話を聞いて強く印象に残ったことは、西原さんが、金久会長と出合ったことと北山クラブの会員であったことを自分の人生の中の宝物のように大事にされていることだった。現在も体調不良にもかかわらずクラブへの責任を果たそうとされている。その純粋な思いは、ちょっと他の人にはないものだった。小生は金久昌業という人に憧れて北山クラブに入会したが、そこまで深い思い入れはなかったと思う。 このことに関連して、日本の登山あるいはワンダールングに与えた今西錦司の影響について、西原さんと意見交換したことがある。金久会長の思想が何もないところから生まれたのではなく、やはり、今西らを中心とした京都一中の山岳部の伝統の中で育まれたものだったと思われる。今西の「山岳省察」に収められた小編、そしてとりわけ三髙山岳部報第五号に載った「芹生峠付近」に表出された青年期のロマンチシズムは、後年、高校生であった小生を魅了したように、金久会長ら戦中派世代の青年たちを山へ向かわせたに違いない。今読み返しても十代のころの熱い思いが蘇ってくるようである。 最後にその一節を引用しておこう。「・・・ 芹生峠を越えると丹波路である。丹波という国が子供心にどんなに描かれていたか。丹波には狼がいる。丹波には山蛭がいる。丹波には大きなスズメバチがいる。丹波には裏が一面金色に輝くシジミチョウがいる。そんな話をきくと、加茂川の水が無くなるところまで行ってあそこに見える山を越え、そのまだ奥に続く山の丹波へ行ってみたい。その願いがはじめて実現された時、はじめて芹生峠を越した時の楽しい思い出、道ばたに咲いた一もとの花にも胸躍らせつつ歩んだことであったろう。山道はダラダラ下りになって緑の山を背に、清流に沿った芹生の人家が見える。土地の高さは六百メートルくらいだから別所や百井とあまり変わらぬ。街道筋にあたっていて人家も一番多く一番よく開けている別所のことはしばらくおいて、僕は百井と芹生とから受ける全然異なった印象に興味をもつ。百井は高原のようなところだ。周囲のようなところだ。周囲の山が低くまたなだらかである。田圃の間を流れる小川もサラサラ流れてすべてがのびのびした気持ちである。これに引きかえて芹生は谷底だ。両岸から山が逼って流れは岩を噛み、猫の額のようなところに辛うじて家がたっている。・・・」
by t0hori | 2023-07-30 23:41 | 随想 | Comments( 0 )
日々の雑念 by 萩の玉川
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